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怪我を減らし、選手生命を長くするコンディショニングの力

日本代表選手も輩出する、東京女子体育大学新体操競技部。高い競技力を支える取り組みのひとつが、13年前から導入している「NCAコンディショニング」です。怪我を予防するだけでなく、選手が本来持つ力を発揮するための身体づくりにも活用されています。

その導入を進めてきたのが、顧問を務める秋山エリカ先生です。自身も日本代表としてオリンピックに出場した経験を持つ一方、指導者となってからは、身体を痛めつけるようなストレッチやトレーニングに疑問を感じるようになったといいます。「選手がより良い状態で競技を続けるためには、どのような身体づくりが必要なのか」。その答えを模索する中で出会ったのが、NCAコンディショニングでした。

なぜ強豪校がコンディショニングを取り入れ、13年以上にわたって実践し続けているのか。選手の身体やパフォーマンスにどのような変化が生まれたのか。秋山エリカ先生に、コンディショニングの重要性や指導現場での活用について詳しく伺いました。

インタビュイー紹介

秋山エリカ先生
画像引用元HP:東京女子体育大学公式HP
https://www.twcpe.ac.jp/headline/education/202603191200427777.html

秋山エリカ先生

東京女子体育大学教授。
幼少の頃にバレエをはじめ、中村学園高校時代に器械体操から新体操に転向。
1984年にロサンゼルスオリンピック、1988年にソウルオリンピックに日本代表として出場。
海外でのコーチ留学を経て、後進の指導に携わる。
日本新体操連盟の理事や、2020年東京オリンピック強化本部員などを務め、
世界と戦える日本人選手を育成している。

監修
日本コンディショニング協会
トップアスリートから高齢者まで幅広く指導を行う
コンディショニングトレーナー
日本コンディショニング協会会長 有吉与志恵氏
日本コンディショニング協会
会長
有吉 与志恵氏
運動指導者として40年以上のキャリアを積み、筋肉を鍛えるのではなく「整える」ことで、身体をGOODコンディションに導ける「コンディショニングメソッド」を確立し、トップアスリートから高齢者まで幅広く指導。また、セルフコンディショニングの普及にも力を注ぎ、学校・企業・自治体での講演や指導者育成にも積極的に取り組む。日本コンディショニング協会の会長として、クライアントの健康維持とパフォーマンス向上を支援している。

人間本来の身体の使い方を指導してもらえる

コンディショニングを導入して、選手の様子はいかがですか?
秋山エリカ先生(以下、秋山先生)
「『足が痛いから、この練習はできません』と言っていた選手が、コンディショニングをすることによって、きちんとやるべき練習をできる状況になりました。試合の成績も伸びてきていて、『コンディショニングに出会えてよかったな』という風に、選手本人とも話しています。オンラインで指導してもらっていましたが、『対面でなくても、こんなにコンディショニングの効果を感じられるんだ』と思っています。」
コンディショニングを知る前の選手は、かなりボロボロの状態で競技に取り組んでいると聞きます。実際はどうですか?
秋山先生
「新体操選手はとっても身体が柔らかそうに見えるんですけれども、同じ筋肉ばかりを使っているので、実は筋肉はすごく硬くて、負担がかかっています。そこに目を向けず、同じ箇所だけに負担をかけ続けていたり、間違った方法で無理なストレッチで解決しようとする子が非常に多いです。コンディショニングは、本来の人間の身体として正しい筋肉の使い方を踏まえて指導していただいているので、納得性が高く、安心して取り組めるというところが指導者としても嬉しいです。」
競技をされている方の中には、特定の動きに特化して強化したい筋肉があり、その偏りがあることがよいと考える方も意外といらっしゃいます。
秋山先生は、競技にあわせた筋肉の強弱はあったほうがよいと思いますか?
秋山先生
「私は全体が機能してこそ一つの身体だと思うので、一箇所だけに偏るのはすごく危ないことだと思います。全身を使って運動する方が効率もいいですし、疲労も少ないです。コンディショニングの『歪みを整え、全身のバランスを整える』という考え方を私は大事にしていきたいなと思っています。」

コンディショニングを始めた選手は「解決法」を自分で考えられるようになる

コンディショニングを始めた選手を見ていて、身体の変化や気持ちの変化で感じていることはありますか?
秋山先生
「これまでは、選手自身が身体に向き合うことがあまりなく、『なんとなく今日は調子が悪い』という曖昧な感覚の選手が多くいました。不調の原因がわからないまま無理やり動かしていたために、調子も上がらず、怪我のリスクも高かったのが以前の状態です。ですが、コンディショニングを初めてからは、『今日はこの筋肉が硬い』とか『この動きができない』という、具体的な身体の感覚を選手自身が言葉にできるようになりました。不具合を感じたときは『自分でこの不具合をどう解決するか』を考えればよいのですが、これまでは選手自身にその考えすらありませんでした。この『自分で不具合の解決方法を考える力』がついたことは、大きな進歩だと思います。」

コンディショニングは選手とのコミュニケーションにも使える

何か不調を感じていても、なかなか指導者に言い出せない選手は多いかと思います。痛いのを悟られたくないとか、レギュラーを外されたら心配とか、そういった心理が働きますよね。秋山先生はそんな選手と、どのようにコミュニケーションを取られていますか?
秋山先生
「『技の精度が落ちてきたな』『どこか悪そうだな』と感じたら、『一旦コンディショニングしておいで』と伝えています。精度が落ちた状態で無理に練習を続けると、変な動きの癖がついてしまい、せっかく練習してもかえって逆効果です。一度身体を正しい状態に戻し、正しい動きができるようにした方が、練習の効率も上がると考えています。
私は『調子を崩したら基本に戻る』という指導スタンスです。これは身体のことだけでなく、種具の扱い方など、すべてに通じる考え方だと思っています。無理に回数を重ねても、いい結果につながらないことがほとんどです。急がば回れではないですが、一度初期設定に戻すことが、結果的には効率的だと考えています。」
コンディショニングがあることで、選手のメンタル面で支えになっていると感じることはありますか?
秋山先生
「メンタル面では、まず怪我が減ることによる安心感が大きいと思います。小さい頃から新体操を続けている選手が多く、古傷を抱えた状態で私のところに来ることも少なくありません。
そうした選手たちがコンディショニングを学び、大学4年間を過ごす中で、むしろ健康になって卒業していく。それは指導者として、とても嬉しいことです。普通は年齢を重ねるにつれて身体に不調が出てくるものですが、うちの選手たちはコンディショニングを学び、継続することで、『怪我が減ってきた』『以前より動きやすくなった』と実感していきます。自分の身体が良くなっているという感覚は、安心感にもつながっているのではないでしょうか。
その結果、4年間で技術も大きく伸びて卒業していきます。そうした選手の成長を身体の面から下支えし、競技に取り組める状態をつくっているのがコンディショニングなのだと思っています。」
コンディショニングをチームで導入するのに苦戦する方もいらっしゃいます。これまでのチームの歴史があって、この練習法が正しいという信念があることも理解できます。
そんな方も多いなかで、秋山先生は革新的なことをされてると思うのですが、どうやってチームでコンディショニングを文化として定着していったのでしょうか。
秋山先生
「私が現役だった頃から、新体操選手はとにかく怪我が多く、練習やトレーニングもたくさんこなさなければなりませんでした。その中で、『これって本当に全部必要なのかな』という疑問をずっと持っていたんです。
当時は、強豪国であるロシアやウクライナのトレーニング方法を真似すれば強くなれる、という考え方もありました。私自身も、留学先で学んだ欧米の方法を日本で取り入れようとしたことがあります。ところが、怪我をする選手が次々と出てしまい、『身体を痛めながら続けることが本当に正しいのだろうか』と感じるようになりました。
そんなときに出会ったのが有吉先生です。日本人と欧米人では筋肉の特徴が異なり、日本人に合った身体の使い方を身につければ十分に世界で戦えると教わりました。
コンディショニングという考え方を知ったときは、まさに目から鱗でしたね。汗と涙の根性論ではなく、選手が良い状態で練習に取り組み、自分の力を発揮して勝っていく。それは、まさに私が理想としていたものでした。実際、うちの選手たちは明るく、前向きに競技に取り組んでいます。
そうした状態をつくるためにも、身体の不具合をできるだけなくしておくことが大切です。そのためには、一部の選手だけでなく、チーム全員でコンディショニングに取り組む必要があると考えています。うちでは毎年、1年生に『なぜコンディショニングが大切なのか』『身体はどういう仕組みなのか』という基本から教えていただいています。上級生が改めて参加することもあり、繰り返し学ぶ中で、コンディショニングがチームの文化として定着していきました。」
指導者の間では、これまでのトレーニング方法とは違うコンディショニングに対して、あまりよく思われない方もいるのでしょうか?
秋山先生
「怪我予防や身体づくりの重要性については、多くの指導者が十分に感じていると思います。ただ、指導者は長年培ってきた経験や知識をもとに選手と向き合っています。
そのため、これまでの考え方や指導方法を変えることには、大きなストレスがかかるはずです。だからこそ、指導者自身も柔軟である必要があると感じています。スポーツは常に進化していくものですし、どの指導方法にも、それぞれの考え方や正しさがあると思うんです。その中で大切なのは、『自分の選手にどんな状態で競技に向き合ってほしいか』ではないでしょうか。
私が理想とするのは、怪我なく毎日練習ができ、常に動きやすい身体でいられることです。反対に、多少無理をしてでも決められた形をつくることを重視する指導スタンスであれば、コンディショニングは合わないかもしれません。
結局のところ、指導者が自分の選手にどうあってほしいと考えるか。それが、コンディショニングを取り入れるかどうかを左右する大きなポイントだと思っています。」
これからコンディショニングに出会う選手、保護者、指導者の方に秋山先生から伝えたいことや知っておいてほしいことはありますか?
秋山先生
「まず、コンディショニングに出会えたこと自体が、選手にとってすごく幸運なことだと思います。多くの選手が、怪我をきっかけに自分の限界を感じ、競技を辞めてしまいます。新体操の場合、そのタイミングが小学6年生や中学生など、かなり若い時期に訪れることも少なくありません。
だからこそ、早いうちから丁寧にコンディショニングを続け、選手生命を長く保てることには大きな価値があると感じています。痛みや怪我を減らして練習を続けられるだけでなく、身体を正しく使えるようになることで、技の精度も自然と上がっていきます。
実際、うちでは卒業後も競技を続けている選手が多く、日本代表の松坂玲奈をはじめ、現在も4人ほどが元気に競技を続けています。そうした姿を見ると、コンディショニングが選手生命を支える一つの要素になっているのだと思います。
そして、コンディショニングの価値は現役時代だけではありません。競技を引退した後も、自分の身体と向き合う方法を知っていれば、年齢を重ねても健康に過ごしたり、快適に歩いたりすることにつながります。競技人生だけでなく、その先の人生までより良いものにしてくれる。その手助けになるのが、コンディショニングなのではないかと考えています。」

身体を知ることが、長く競技を続けるための力になる

秋山先生のお話から見えてきたのは、コンディショニングは単に怪我を予防するためだけのものではないということです。身体を正しい状態に整えることで、痛みや不調を抱えたまま無理に練習を続けるのではなく、より動きやすい身体で競技に向き合えるようになる。さらに、自分の身体の状態を理解できるようになれば、「なぜ今日は調子が悪いのか」「どうすれば良い状態に戻せるのか」を自分自身で考えることにもつながります。東京女子体育大学新体操競技部では、こうした考え方をチーム全体で共有し、繰り返し学ぶことで、コンディショニングが一つの文化として根付いてきました。

そして、その知識は現役の競技生活だけで終わるものではありません。自分の身体と向き合い、より良い状態に整える方法を知っていることは、競技を続けるうえでも、その先の人生を健康に過ごしていくうえでも、大きな財産になります。「怪我をしてから対処する」のではなく、身体の仕組みを知り、自分自身や選手の身体をより良い状態へ整えていく。選手として長く競技を続けたい方はもちろん、子どもの身体を支えたい保護者の方、選手の可能性を広げたい指導者の方も、まずはコンディショニングの考え方から学んでみませんか。

選手の身体を「整える」視点を、日々のアスリート指導に
今回のインタビューでは、コンディショニングを取り入れたことによる変化を現役の指導者である秋山先生に教えてもらいました。

アスリートのパフォーマンスを高めるためには、筋力や技術を伸ばすだけでなく、選手一人ひとりの身体の状態を捉え、より動きやすい状態へ整えることも大切です。

当メディア「トトコン」では、身体を「整える」ことで、怪我の予防やパフォーマンス向上を支えるコンディショニングを紹介しています。 選手の感覚だけに頼らず、身体の状態や動きの特徴を踏まえた指導を行うために、アスリートを支える指導者の方も、コンディショニングの知識とスキルを学んでみてはいかがでしょうか。