コンディショニングトレーナーになるには
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選手の走りを変えた、コンディショニングの続け方と指導のあり方

駅伝で活躍をしている選手たちは、コンディショニングを普段の練習や生活の中でどのように取り入れているのでしょうか。また、指導者やトレーナーに対して、どのような関わり方や説明を求めているのでしょうか。こちらの記事では、コンディショニングを継続するための習慣や、選手が納得して取り組むために必要な指導のあり方についてお話を伺います。

引き続き、山川拓馬さん、伊藤蒼唯さん、佐藤圭汰さんの3名に、コンディショニングを通じて感じた身体や走りの変化について伺いました。

インタビュイー紹介

山川拓馬さん

山川拓馬さん(4年次キャプテン)

駒澤大学の駅伝メンバーとして、長距離区間やロードで安定した走りを見せてきた選手。全日本大学駅伝では、2022年の4区、2023年・2024年の8区で区間賞を獲得。特にアンカー区間での強さが光り、チームの上位争いに大きく貢献した。
箱根駅伝では5区や8区など、タフな区間を任されることが多く、駒澤大学の記録集でも5区・8区で歴代上位の記録を残している。出雲駅伝でも2023年・2024年に3区を走り、いずれも区間2位を記録。
大舞台で大きく崩れない走りが持ち味の、ロード適性に優れたランナー。

伊藤蒼唯さん

伊藤蒼唯さん

駒澤大学の三大駅伝で安定して上位成績を残してきた選手。箱根駅伝では6区を得意とし、2023年に区間賞を獲得。
2025年・2026年も同区間で区間2位に入り、駒澤大学の6区歴代最速記録も持つ。
出雲駅伝では4区で複数回出走し、2023年・2025年に区間2位、2024年に区間3位を記録。全日本大学駅伝でも2025年に5区で区間賞を獲得するなど、どの大会でも高い水準で結果を残している。

佐藤圭汰さん

佐藤圭汰さん

駒澤大学時代にはトラック・駅伝の両方で高い実力を発揮してきた選手。
出雲駅伝では2022年に2区で区間新記録を樹立し、1年時から大きな注目を集めた。全日本大学駅伝でも2023年に2区で区間新記録をマークしている。
箱根駅伝では2024年に7区で区間賞、2025年に10区で区間賞を記録。スピードだけでなく、長い距離でも勝負できる総合力の高さを示した。

監修
日本コンディショニング協会
トップアスリートから高齢者まで幅広く指導を行う
コンディショニングトレーナー
日本コンディショニング協会会長 有吉与志恵氏
日本コンディショニング協会
会長
有吉 与志恵
運動指導者として40年以上のキャリアを積み、筋肉を鍛えるのではなく「整える」ことで、身体をGOODコンディションに導ける「コンディショニングメソッド」を確立し、トップアスリートから高齢者まで幅広く指導。また、セルフコンディショニングの普及にも力を注ぎ、学校・企業・自治体での講演や指導者育成にも積極的に取り組む。日本コンディショニング協会の会長として、クライアントの健康維持とパフォーマンス向上を支援している。

コンディショニングを日々の練習や生活にどう取り入れているのか

コンディショニングはどんなタイミングで何を使っていますか?

寝る前やフィジカルトレーニングに取り入れる

佐藤圭汰さん(以下、佐藤)
「自分は、寝る前にストレッチをして、ボールで身体をほぐしてから寝るようにしています。また、週に2〜3回は必ずフィジカルトレーニングの日を作り、その中で教えてもらったトレーニングを取り入れています。自分なりにチューブなども使いながら、継続して取り組んでいます。
ポイント練習やハードな練習のアップでは、自分は膝が内側に入りやすい癖があるので、それを少しでも改善できるように、お尻を効かせる補強を軽く入れています。そのうえで、脚をまっすぐ前に出す意識を持ってから、ポイント練習に入るようにしています。」

練習前と寝る前に欠かせない習慣に

山川拓馬さん(以下、山川)
「自分の場合は、1日やらないだけですぐに元に戻ってしまう感覚があります。今までの癖がずっと身体に染みついているので、それを直していくのは簡単ではありません。本当に1日やらないだけでも、膝が開いてしまうことがあるので、寝る前は必ずポールに乗るようにしています。
自分の判断基準は、ポールに乗ったあと、ベッドに寝た時に背中がしっかりついているかどうかです。重力を感じながら、背中がベッドについていることを確認してから寝るようにしています。 練習に関しても、特にポイント練習の時は、基本的に1時間半ほどかけて、コンディショニングやハーフポールトレーニングを含めたアップを行っています。それを終えてから、さらに通常のアップに入るような流れです。 今では、やらないと不安になるくらい、自分にとって欠かせないものになっています。タイミングとしては、練習前と寝る前に取り入れています。」

その日の身体の状態に合わせて取り組む

伊藤蒼唯さん(以下、伊藤)
「僕は、性格的な部分もあると思うのですが、感覚を大切にして取り組みたいタイプです。変に「絶対に毎日やらないといけない」と決めてしまうと、逆に続かなくなってしまうところがあります。
なので、たとえば「今日は背中が少しきついな」と思ったらポールに乗ったり、足首やアキレス腱のあたりが気になったら足首を回したりしています。本当に自分の感覚に頼りながら、その時の身体の状態に合わせて取り組んでいます。 決まったメニューがあるわけではありませんが、毎日何かしらはやるようにしています。自分にとっては、無理に決めすぎず、その日の感覚に合わせて続けていく形が合っているのだと思います。 背中が張っていたり、上半身が気になる時はハーフポールに乗ったりします。
でも、2人と比べると、そんなにガチガチに固定してやるタイプではないです。自分の感覚に従ってやっているところが大きいですね。」

練習前の動きづくりで意識していること

練習前の動きづくりについてお聞きしたいです。長距離選手は、ポイント練習やインターバルの前に動きづくりを行うことが多いと思います。こちらでも「パフォーマンストレーニング」として、走りにつながる身体の使い方をお伝えしてきました。 皆さんは、そうしたトレーニングや動きづくりを、実際の練習前にどのように活用していますか?

走る前に身体を「使える状態」にしておく

佐藤
「はい。練習中は走ることに集中しているので、動きづくりを細かく意識し続ける余裕はあまりありません。だからこそ、走る前にいろいろな筋肉へ刺激を入れて、身体を「使える状態」にしておくことは大切にしています。練習前に筋肉へ刺激を入れることは、自分の中で必ず取り入れている習慣です。」

どこの筋肉を使うのかを意識するように

山川
「自分も、練習前には必ず取り入れています。以前は、とりあえず身体を温めてから走ればいいと思っていました。でも今は、「どこの筋肉を使える状態にしておくか」を意識するようになりました。
お尻や体幹など、走るために必要な部分へ刺激を入れてから走ることで、最初から動きやすさが全然違います。特にポイント練習では、その違いを強く感じています。」

コンディショニングはほかのトレーニングと何が違うのか

「コンディショニングはここが他とは違うな」というところがあれば教えてください。

怪我をしない身体づくりまで取り組める

佐藤
「治療は、痛みを取ったり、回復を促進したり、張っている筋肉を柔らかくしたり、痛めているところに鍼をしたりして、そこで終わることが多いと思います。
一方でコンディショニングは、まず身体の状態を整えたうえで、コアの使い方やその日の状態に合わせたトレーニング、お尻への刺激の入れ方など、いろいろなことを教えてもらえます。
アップの時にも、「この動きをすると、ここに刺激が入るよ」と教えてもらい、それを実際の練習に取り入れています。怪我をしない身体づくりにつながるトレーニングまで行えるところが、普通のトレーニングとの大きな違いだと感じています。」

コンディショニングは「自分でやるもの」

山川
「コンディショニングは「自分でやるもの」だと感じています。教えてもらったことを、自分で毎日続けられる。そこが一番大きな違いだと思います。人に治してもらうという感覚ではなく、自分で自分のコンディションを整えられるようになる。それがコンディショニングなのだと思います。
ただ何となく身体を動かすのではなく、自分の身体の状態を考えながら取り組むものがコンディショニングなのかなと思います。」

原因を理解し、再発を防ぐ方法まで学べる

佐藤
「コンディショニングでは、ここでは「今こういう状態だから、こうなっている」という身体の状態をきちんと説明してもらえます。そのうえで、「同じ状態にならないためには、こういうトレーニングをするといい」というところまで教えてもらえるんです。ただ痛みや不調に対応するだけではなく、「原因を理解し、再発を防ぐための方法まで学べる。そこが、一般的な治療との大きな違いだと感じています。
また、治るまでの過程で何をすれば回復につながるのか、治ったあとにどう段階を踏んで競技へ戻していくのかまで、コミュニケーションを取りながら一緒に考えてもらえます。
日本では、そうした部分を「自分で調べてやるもの」と捉えられることも多いと思います。だからこそ、身体の状態や復帰までの流れを一つひとつ共有しながら進められるところは、とても心強いです。」

選手にとって、信頼できる指導者とは

皆さんにとって有吉与志恵はどんな存在だったのかをお聞きしたいです。

身体だけでなく、心の面でも支えてくれる存在

佐藤
「怖い存在ではなかったですね。自分は性格的に、不安になりやすいところがあります。どれだけ良い練習ができていても、「本当に大丈夫かな」と考えてしまうことが結構ありました。そういう時に、有吉先生はさまざまなエビデンスに基づいて話をしてくださり、自分を前向きな気持ちにさせてくれました。それが本当に大きな支えになっていました。
特に印象に残っているのは、最後に故障した時です。あの時は、自分の中では「もうこの世の終わりだ」「もう走れないかもしれない」と思うくらい落ち込んでいました。でも、先生が「そんなにひどい怪我じゃない」と言ってくださったことで、もう一度前を向くことができました。あの言葉がなければ、本当に無理だと思っていたかもしれません。先生のことを信じて取り組めたからこそ、身体の状態も良くなりましたし、気持ちの面でもすごく助けられました。自分にとっては、身体だけでなく心の面でも支えてくれる、本当にありがたい存在でした。」

競技人生を変えるきっかけをくれた存在

山川
「有吉先生は、自分が変わるきっかけをつくってくれた存在です。 コンディショニングを始めたのは、2年生の春に入る少し前でした。ちょうどその年の箱根駅伝で、自分が一番うまく走れなかったレースがありました。足もボロボロで、心もボロボロで、良い区間順位で帰ってくることができず、チームにも迷惑をかけてしまったと感じていました。「これからどうしよう」と思うくらい落ち込んでいた時に、本当に救いの手を差し伸べてくれたのが有吉先生でした。
その頃は故障ばかりで、練習も全然できない状態でした。故障して、少し走れるようになって、また故障する。その繰り返しで、半年ほどまともに練習できない時期もありました。でも、そこでコンディショニングと出会えたことが、自分にとって大きな転機になりました。あの時に出会っていなかったら、3年生、4年生で駅伝を走ることはできていなかったと思います。そういう意味でも、有吉先生は自分の競技人生を変えるきっかけをくれた存在です。」

この人になら任せられる。選手が感じる信頼の決め手

選手目線でお聞きしたいのですが、「このトレーナーになら任せられる」「信頼できる」と感じる決め手は何ですか?皆さんもこれまで、いろいろなトレーナーや先生と関わってきたと思います。その中で、どんなところに信頼感を持つのかを聞かせてください。

理論やエビデンスに基づいて説明してくれること

佐藤
「自分は、エビデンスや理論に基づいて話してくれる人を信頼できます。感情論だけで話されるよりも、きちんと実績や根拠があって、「こういう理由があるから、こう考えている」と説明してくれる人の方が、自分には合っていると感じます。
ただ「大丈夫」と言われるだけではなく、なぜ大丈夫なのか、なぜそのトレーニングが必要なのかを説明してもらえると、納得して取り組むことができます。そういう意味で、理論やエビデンスをもとに、自分が理解できるように伝えてくれる人は、本当に信頼できると思います。」

「なぜやるのか」に答えてくれること

山川
「自分が大切だと思うのは、「なぜやるのか」にきちんと答えてくれることです。これはトレーナーに限らず、どんな人にも共通することだと思います。「なぜですか」と聞いた時に、納得できる答えが返ってこないと、自分はその人に任せたいとは思えません。自分の質問に対して、きちんと理由を説明してくれること。それが、信頼するうえで本当に大切だと思っています。
そういう人に応援してもらえると、「その期待に応えたい」「頑張ろう」と思えます。お互いに納得し合える関係でなければ、本当の信頼関係は築けないのかなと思います。」

実績や周囲からの信頼感も判断材料に

伊藤
「まず一言で言うなら、信頼できるかどうかが大事だと思います。治療やコンディショニングのサイトを見ると、「どの選手を見てきたのか」「どのような実績があるのか」が書かれていることがあります。もちろん、それを書くこと自体は当然だと思いますし、選手側から見ても「すごいな」と感じることはあります。ただ、「何年からその選手を見ています」と書かれていても、その時期と選手の結果が合っていないように感じることもあります。競技者だからこそ、そういう部分には敏感になるところがあります。
あとは、選手同士の口コミも大きいです。「ここに行ってきたよ」と聞いて、「じゃあ自分も行ってみようかな」と思うこともあります。逆に、行った選手が少しでもマイナスなことを言っていると、「自分には少し違うのかもしれない」と感じてしまうこともあります。
たとえば治療で、「鍼がすごく痛かった」「マッサージの張り返しが強かった」と聞くと、それだけで「次の日の練習に影響が出るのではないか」と考えてしまいます。
だからこそ、理論やエビデンスがあること、そして実績がきちんと結果に基づいていることは大切だと思います。選手目線では、そうした根拠や周囲からの信頼感があるかどうかが、任せられるかどうかの判断材料になります。」

自分の身体を知ることが、走りの変化につながっていく

山川さん、伊藤さん、佐藤さんが語ったのは、コンディショニングによって単に身体の状態が整っただけではなく、自分自身の身体への理解が深まっていったという実感でした。

左右差や姿勢の崩れ、怪我の原因、走りのクセなど、自分では気づきにくい課題を知ることで、選手たちは日々のトレーニングやレース中の走りに変化を感じるようになっています。まっすぐ走れるようになった、軸がぶれにくくなった、重心が上がった、同じ練習でも余裕度が変わった。

そうした一つひとつの変化は、コンディショニングを継続してきたからこそ得られたものだといえるでしょう。

身体への向き合い方はどう変わったのか

皆さんは一流の舞台で走ってこられたと思いますが、もともと身体のことへの関心や意識は高かったのでしょうか。それとも、有吉先生と出会い、コンディショニングを始めたことで、身体への向き合い方が変わったのでしょうか。

より深く身体を見るようになった

佐藤
「自分は、本当に原因が分からなくて、それを知りたくてコンディショニングに来ました。怪我をすると、自分の身体と向き合わざるを得なくなると思います。自分もその時点で「ちゃんと向き合いたい」という気持ちがあったので、ここに来てから、さらに自分の身体を見るようになりました。もともと身体と向き合おうと思って来ていたので、「劇的に考え方が変わった」というよりは、より深く身体を見るようになったという感覚です。」

表面的な知識が、身体の理解につながった

山川
「自分は、かなり変わりました。 高校の時も青トレは少しやっていましたが、正直、表面的に取り入れていただけでした。根本的な意味をきちんと理解できないまま続けていたので、「何のためにやるのか」と聞かれても、ちゃんと答えられない状態だったと思います。でも、コンディショニングを通して、「これはこういう意味があって、このためにやるんだ」と理解できるようになりました。そこで初めて、「そういうことだったのか」と全部が結びついていった感覚があります。
それまでは点でしかなかった知識が、少しずつ線になっていった。表面的にしか知らなかったことを、ようやく自分の中で理解できるようになったところは、すごく大きく変わった部分だと思います。」

競技とのつながりまで理解できるようになった

伊藤
「自分は、そういうトレーニングをほとんど経験しないまま大学に入りました。大学には全国からいろいろな選手が集まってくるので、身体づくりやトレーニングの知識を持っている選手もたくさんいました。ただ、いろいろな動きを取り入れている人に「なんでそれをやるの?」「どこで聞いたの?」と聞いても、「ここで聞いたから」という答えだけだったりして、自分の中では少し取り入れづらさがありました。性格的にも、確かな根拠がないまま何かを取り入れるのはあまり好きではありません。
でも、コンディショニングに来てからは、「ここに効く」「ここが使えるようになるとバランスがこう変わる」ということを理解したうえで取り組めるようになりました。だからこそ、ただ動きを真似するのではなく、それがランニングや競技にどうつながっているのかまで分かるようになった気がします。」

選手が自分の身体を理解し、整えられるように導くことが指導の価値

選手たちの話から見えてきたのは、コンディショニングが一時的なケアではなく、日々の練習や生活の中で継続していくものだということです。

練習前に身体を使える状態にする、寝る前に身体の状態を確認する、その日の違和感に合わせて取り組む。選手たちは、それぞれの感覚や課題に合わせながら、コンディショニングを自分の習慣として取り入れていました。

ただし、選手が自分で身体を整えられるようになるためには、単にメニューを渡すだけでは十分ではありません。「なぜこの動きが必要なのか」「今の身体はどのような状態なのか」「同じ不調を繰り返さないために何を意識すべきなのか」を、選手自身が理解できるように伝えることが大切です。

だからこそ、指導者やトレーナーには、選手の身体の状態を見極め、必要なコンディショニングを分かりやすく伝える力が求められます。一方的に指示するのではなく、選手が自分の身体と向き合い、日々の練習や競技生活の中で主体的に活かせるように導くことが、これからの指導現場ではより重要になるでしょう。

コンディショニングを教えられる指導者が増えることは、怪我をしにくい身体づくりや、安定したパフォーマンスの土台づくりにもつながります。選手自身が「自分で整えられる力」を身につけるためにも、指導者がコンディショニングの考え方を理解し、現場で伝えられるようになることには大きな意味があるといえます。

選手の身体を「整える」視点を、日々のアスリート指導に
今回のインタビューでは、コンディショニングとほかのケアの違いや、身体への向き合い方の変化を教えてもらいました。

アスリートのパフォーマンスを高めるためには、筋力や技術を伸ばすだけでなく、選手一人ひとりの身体の状態を捉え、より動きやすい状態へ整えることも大切です。

当メディア「トトコン」では、身体を「整える」ことで、怪我の予防やパフォーマンス向上を支えるコンディショニングを紹介しています。 選手の感覚だけに頼らず、身体の状態や動きの特徴を踏まえた指導を行うために、アスリートを支える指導者の方も、コンディショニングの知識とスキルを学んでみてはいかがでしょうか。